創薬アドベントカレンダー 2017 総括
創薬アドベントカレンダー 2017 最終日記事
#souyakuAC2017
創薬アドベントカレンダーに参加してくれたみんな、ありがとう!
おかげさまで1日も欠けることなく記事が揃った。
締めくくりとして、各記事の紹介がてら総括をしてみようと思う。
内訳
創薬と一口に言っても、標的探索から化合物発見・創出、治験、上市に至るまで
実に幅広い分野を内包している。記事の内容も多岐にわたるものとなった。
独断と偏見で分類しておこう。
概論
まずは創薬というもののイメージをつかむにはこれらに目を通してみるとよいだろう。
- 12/1 「創薬」って何? by @souyakuchan
- 12/5 創薬化学者の仕事について by @iwatobipen
- 12/25 創薬アドベントカレンダー 2017 総括(当記事) by @souyakuchan
創薬科学
必読決定版。
- 12/20 Druglikenessについてのよもやま話 by @y__sama
読みもの
身近なアスピリンの話から、様々な薬効発見の歴史にまつわるリアルなエピソードを集めた骨太な記事、そしてダジャレ。
- 12/9 アスピリンかわいいよアスピリン by @__YamYuki__
- 12/11 開発時には思いもしなかったような使われ方をしている薬 by @Fizz_DI
- 12/22 創薬ダジャレ by @maskot1977
プログラミングに関係ない話を Qiita に載せると凍結されるので気を付けよう。
実務系
なかなか他では読めない、実務者ならではの知見に基づいた記事。
- 12/10 ポエム:新薬の薬価算定 by @y__sama
- 12/17 創薬化学と特許の関わりについて by @rkakamilan
- 12/23 特許調査の実例 (PD1の話) by @rkakamilan
データ処理環境構築
ケムインフォマティクス解析環境を実際に構築してみよう。Python はいいぞ。
- 12/4 Django + RDKit database cartridge のDocker-composeで化合物データベースを作った話 by @__YamYuki__
- 12/15 docker+rdkitブートキャンプ by philopon
データ処理
実際にデータに触ってみよう。RDKit はいいぞ。
- 12/2 創薬ちゃん統計 by @kubor_
- 12/3 化合物データの取り扱いのイロハ by @Mochimasa
- 12/6 化合物をベクトルにして比較しプロットする by @Mochimasa
- 12/16 エネルギーダイアグラムを描こう by @kyusque
- 12/19 化合物データの読み込みのトラブルシュート by @Mochimasa
IT 創薬(in silico 創薬)
楽しい薬探し! 新薬候補探索の醍醐味はここだ。
- 12/7 FAMSを用いたタンパク質機能予測に基づくDrugDiscovery by @Yh_Taguchi
- 12/8 テンソル分解を用いて遺伝子発現プロファイルからインシリコ創薬 by @Yh_Taguchi
- 12/12 エスプレッソ(Spresso)の話 by @tonets
- 12/13 薬剤標的相互作用予測の話 by @tonets
- 12/21 Structure-based drug designとAccelerated MDによるタンパク質構造探索の方法の紹介 by @Ag_smith
標的探索
新規創薬標的を探す手法として役立つだろう。
- 12/14 タンパク質間相互作用予測の話 by @tonets
- 12/24 創薬と遺伝統計学と量的形質とmissing heritability とominigenic by @Med_KU
その他
- 12/18 RDKit-users.jpについて by @kubor_
余談だが RDKit-users.jp には実は私がドメインを提供している。
なお、記事のホスティング元の内訳は
- Qiita: 9 件
- はてな: 6 件
- GitHub, Gist, Wordpress: 6 件
- Medium, note: 3 件
- 独自ウェブサイト: 1 件
となっていた。
執筆者
- 大学教員: 6 名
- 薬剤師: 1 名
- 企業: 5 名
- 院生: 3 名
頼もしい布陣だ。
紹介しても差し障り無さそうな人を何人か紹介しておこう。
@kubor_
通称ソーシャル創薬美少女(私 souyakuchan のほうが美しいが)。某社の新進気鋭エンジニアだ。
彼女のバーチャル YouTuber としての雄姿を見たい方はこちらをどうぞ。
@Mochimasa
言わずと知れたディフェンディングチャンピオン。IPAB IT 創薬コンテストと言えばこの人だ。
Flying Spaghetti Monster がトレードマークで、あらゆるコンペティションで上位をさらっていく。
@__YamYuki__
ケモインフォマティクス若手の会 会長。ボードゲームで一緒に遊ぼう。
@Yh_Taguchi
教授ツイッタラー。
@Fizz_DI
正しい薬剤情報を発信し続ける現役薬剤師!
お薬本発売中。薬局に一冊は置いておきたい。
@tonets
スマート創薬研究ユニットの顔たる麻雀猫。学振本発売中。
業績もさることながら教育指導も秀逸で、家庭でもラボでも良いパパとしての地位を確立している。
@Ag_smith
教授会でもネタにされるアルファツイッタラー、ラボォ氏。生体分子の計算科学と言えばこの人だ。
ブログがとても勉強になるぞ。
@maskot1977
二児(双子)の父となったスーパーマリオ PI。ダジャレ職人として定評がある。
企業の方については、炎上など差し障りがあるといけないので敢えて紹介は控えておく。
やってみよう創薬
創薬アドベントカレンダー 2017 は皆さんのおかげで大いに学びのある記事群となった。
一通り学んでいただいたところで、
ソーシャル創薬娘 souyakuchan として一貫して申し上げたいのは
「みんなも創薬やってみよう」
ということだ。
データやツールを揃えれば誰でも創薬の世界に足を踏み入れることができる。
実際にやってみる時に役立つリソースを簡単に絞ってまとめておこう。
既知実験データ
LBVS などをやりたい時の出発点となる。
ただし勿論、available なデータには偏りがあるぞ。
ノーベル賞シーズンになると研究費配分のあり方について話題になるのが恒例だな。
— 創薬ちゃん (@souyakuchan) 2016年10月5日
創薬のためのアッセイ実験をするにしてもお金が必要だ。世の中でアッセイ対象になっている標的の内訳を PubChem BioAssay から抽出してグラフにしてみたぞ。 pic.twitter.com/i9QhhCEfoa
新規標的を狙う場合にはデータ不足に直面することを覚悟しよう。
最新の論文や特許情報等を漁ることも場合によっては必要だ。
化合物データベース
- ZINC: 購入可能な 3500 万種類以上の化合物。
- PubChem Compounds
- ChEMBL
- SciFinder: 合成経路等の情報もある。有償だが大学や企業なら購入しているかもしれない。
- Sigma-Aldrich (Merck)
日本国内で化合物をまとめて調達することを考慮するならば、
これらも便利だ。
立体構造データベース
興味ある標的があればまずは PDB で探してみよう。
リガンドとの複合体構造の美しさを眺めてみるのも一興だ。
標的そのものの構造が無くても、似た分子の構造があればホモロジーモデリング (Ag++ ブログ) で作ってしまう手もあるぞ。
創薬標的にフォーカスした構造データベースとして、ネタが新鮮で面白いぞ。
結晶構造解析では解きにくかったものがクライオ電顕で解かれる例も増えてきた。
分解能はまだまだであることも多いが、今後に期待だ。
クライオ電顕では、結晶構造解析ほどの分解能は今のところ出しにくい。分布を見てみよう
— 創薬ちゃん (@souyakuchan) 2017年10月6日
PDB 全体の resolution 分布: https://t.co/61tvJ93RAY
クライオ電顕の resolution 分布: https://t.co/IcHNp7uL7J
分子ビューワー
- PyMOL: オススメだ。インストール法など (Ag++ ブログ)
故 Warren L. DeLano 氏のオープンソース精神に則り、今は Schrodinger 社が PyMOL を開発・維持している。
IT 創薬 suite
国内での化合物調達・アッセイ発注等も見据えた場合に大変便利なツール群だ(無償)。
上記の LigandBox や ChemCupid と合わせて活用すると良い。
CUI の敷居が高ければ GUI 付きの有償製品 (MolDesk, MF myPresto) もあるぞ。
化合物配座生成の OMEGA や化合物立体構造類似性検索の ROCS の性能に定評がある。
アカデミックライセンスであれば無償なので試してみると良いぞ。
- SMALL-MOLECULE DRUG DISCOVERY SUITE (Schrödinger)
- Pipeline Pilot, Discovery Studio (BIOVIA/Dassault Systèmes)
- MOE (CCG)
高級品だがいずれも定評ある創薬 suite だ。
無償部分もあるので興味があれば触ってみるといい。
論文でもよく用いられるドッキングソフトウェア(無償)。
ベンチマークセット
腕試し
参加者がバーチャルスクリーニングをすると、アッセイしてもらえて結果が分かるコンテストだ。
実は私も協賛している。
必ずしもスパコンのような大規模計算資源を用いずともヒット化合物が見出されているんだ。
自宅の PC でも充分 IT 創薬して遊べるぞ。
Topics
- SAR News
- メドケム日記: ここ数年更新が無く寂しいがためになる記事ばかりだ。
- Drkcore
- IS LIFE WORTH LIVING?
- 異世界薬局: 実は私も監修している。
メリークリスマス!
以上で、まずは「創薬やってみる」ことは誰にでもできるはずだ。敷居など気にせず飛び込んでみよう。
起きたら靴下にヒット化合物が入っているといいな。